配管の老朽化
マンションは、平成25年12月末日時点で全国に約601万戸あり、1,480万人が居住しています。そして、築30年を超えるマンションストックは106万戸程あります。国土交通省が平成23年に示した「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」の修繕周期では、給水管の更新が36年、排水管の更新が42年となっています。専有部分の横引き管と共用部分の立て管は繋がっていて、設置時期・材質も同じなので劣化状況もほぼ同一と推測されます。しかし、管理組合が給排水立て管を更新した事例はたくさんありますが、専有部分の給排水横引き管まで一斉に交換する事例は少ないのが現状です。
保険会社の対応
築30年を越えるマンションでは、漏水事故が多発することがあります。保険会社からみれば、交換時期に交換せず、しっかり管理できない管理組合のツケを「水漏れ原因調査費用」の名目で請求されては困るという姿勢から築年数の多いマンションとの契約を控えたり、築年数に応じて保険料を値上げした会社が出てきています。このように配管の老朽化の問題はマンション全戸の共通の課題です。
一斉更新の根拠
各戸の意思に任せると「うちは必要ない」「うちは大丈夫」「年金暮らしなので余計な出費は防ぎたい」等の理由でどこのマンションでも30%程度は配管の更新を拒むことがあります。「うちは必要ない」「うちは大丈夫」と言われる根拠はなく、迷惑がかかるのは下階の居住者です。
それでは管理組合が専有部を含めて一斉に更新する根拠はあるのでしょうか?
マンション標準管理規約(修繕積立金)第28条五では、「その他敷地及び共用部分等の管理に関し、区分所有者全体の利益のために特別に必要になる管理」は修繕積立金を取り崩すことができるとなっています。
また、(敷地及び共用部分等の管理)第21条2では、「専有部分である設備のうち共用部分と構造上一体となった部分の管理を共用部分の管理と一体として行う必要があるときは、管理組合がこれを行うことができる」となっています。
しかし、コメントの21条関係⑤では、「配管の清掃等に要する費用については第27条第三号の『共用設備の保守維持費』として管理費を充当することが可能であるが、配管の取替等に要する費用のうち専有部分に係るものについては、各区分所有者が実費に応じて負担すべきものである」とされています。
管理組合主導のメリット
管理組合が主導で給排水管の交換を進めて行くメリットは、
入居時から25年程経過すると家族構成が変わり、生活様式も変化します。それに伴いリフォームを計画する住戸が増えてきます。
また、専有部の共通部材が摩耗や劣化によって不具合を生じるのもこの時期です。床を開口する時にフローリングや壁・配置換えのリフォームも計画しやすくなり、全戸で不具合箇所を改善できることは合理的です。
長期修繕計画に期間限定・目的をはっきりさせた特別修繕積立金を設定し、新築マンションで採用されている新しい工法で給排水管を全戸交換することでマンション全体の価値があがり、使い勝手も向上するのではないでしょうか。
発議から工事実施までの一例
これは期間を決めて特別積立金を徴収して工事を行う一例です。修繕積立金に余剰の残高があり、長期修繕計画の実施時期を建物劣化診断や設備点検に基づき見直し、総会決議を経て特別修繕積立金を徴収しないで実施する方法も考えられます。
発議→専門委員会の発足→(コンサルトを選定する場合は総会決議)→給排水管の劣化診断(立て管・横引き管)→タイプ別各戸の標準工事金額の設定(オプション工事金額も検討・公表)→理事会決議→区分所有者への説明会→総会にて修繕積立金の期間限定の特別修繕積立金徴収と管理規約改正の決議→(特別修繕積立金の積立期間が2/3程経過した時)→改修業者のリストアップ→戸別の相談窓口設定→理事会決議→区分所有者への説明会→総会にて改修業者・スケジュール等の決議→工事→各戸アンケート・アフターサービス
一斉更新の決議は過半数で成立しますが、全戸に理解してもらい賛同してもらえるように住民説明会や個別の相談窓口を設けて、十分に時間をかけて進めることが重要です。また、横引き管更新のリフォーム済みの区分所有者に対しては確認が取れた場合、実施時期に返金する等の措置を議案に盛り込む柔軟な対応も必要です。具体的には、給排水管の交換時期が36年~42年ですから、築25年~30年になったマンションは準備に入った方がよいと提案します。