―マンションの維持管理に専門家の活用を考える―
最近、理事会を廃止して、管理会社が管理者になる第三者管理方式が話題になっています。試験導入を始めたところや新たな部署を作り本格導入を進めているところもあります。
新築のマンションでは、管理会社が管理者になる第三者管理方式を採用して、「役員にならなくてもよいマンション」というキャッフレーズで募集をしているところもでてきました。
確かに休日が活動の中心になる役員の役務から解放されることは、共稼ぎ世帯等にとっては魅力的なことかもしれませんが、維持管理について関心が低下することは避けられず、管理会社への監視が薄れることで、いつの間にか費用負担が増える可能性もあります。
現在、多くのマンションで理事会方式を採用し、維持管理が行われています。役員を総会で順番(輪番制)に選出して、管理者である理事長を中心に理事会で議論して、点検報告等をもとに工事の発注を進め、維持管理をしています。
しかし、築年数が経過すると修繕項目も多岐に渡り、専門知識がないと管理会社のフロントマンの提案が1つだけの場合、実施か継続審議かを判断することも難しく、年間予算をオーバーしなければ良しとして承認してしまうこともあるはずです。
2018年から区分所有者ではない、マンション管理士の私が管理者になり第三者管理を実践しているTマンション(理事会方式から第三者管理方式へ移行)の経緯や現状を具体的に知っていただき、理事会方式と第三者管理方式の違いを考え、マンションの維持管理を今後どのようにすればよいか、議論するきっかけにしていただければ幸いです。
T管理組合との出会い
Tマンション(1966年築、RC造5階建、住居専用40戸、自主管理)と関わりを持つようになったのは2008年7月に当該マンション1室の売買に関与して、重要事項説明書作成のための調査で現地確認に訪れた時からです。外見からは「しっかり管理されている」という印象を受け、管理規約、滞納状況等の調査のために管理責任者と面談したところ、「管理規約がないので制定して管理組合を組成し、管理を管理会社に頼みたい」との要望がありました。
3日後、管理を行っているグループの代表者3名が来所され、「管理規約制定、管理組合の立ち上げと管理会社の選定」の支援の要請があり、8月に仮契約を結ぶことになりました。
そして、現状を詳しく尋ねてみて、分かったことは次の4つでした。
① 30年前、管理会社が倒産したため、6名の有志グループ(以下「管理G」という。)が24年間ボランティアで管理を実施していたが、6年前からは若干の手当てを出すようにした
② 管理費・修繕積立金の集金と清掃は管理Gで行い、点検、外壁等の修繕は業者に頼んで行っている
③ 多額滞納者が3名いて、対応に苦慮している
④ 管理Gは管理から手を引いて、新しい管理会社のもと他の方に役員を任せたい
管理組合の立ち上げ
そこで管理Gの方と何度か打合せを行い、管理規約のたたき台を作り、案がまとまり説明会の開催を促しました。ところが「何度も集まれない」との意向が強く、ぶっつけ本番になりますが、臨時総会の案内を出すことになりました。
2008年11月の総会は、外部オーナーも含め38名の出席がありました。そこでは意見が続出し、「長年管理を引き受けてくれたこと」への感謝の他、「説明不足で強行採決なら法的手段を取る」とか「自主管理の事務報告がない団体に管理費等は支払えない」とか長年の思いが述べられ、議案の内容とは程遠い発言がしばらく続きました。
そこで、今まで外部オーナーへの事務報告を怠ったことを管理G代表が陳謝したことと「皆さんはこのマンションを良くしようと思い、本日集まったのではないでしょうか」という私の問いかけから、雰囲気が変わり議論が進むようになりました。採決の結果、管理規約案が承認され、役員も選出され、管理会社選定も理事会一任となりました。
その後の理事会で数社の管理会社から見積りを取り、ヒアリングの結果、一社を選定し、次年度以降の輪番役員の予定表と共に、2009年3月の臨時総会で承認され、新しいスタートを切ることができました。
役員のなり手不足への対応
司法の力を借りて滞納問題を解決し、輪番制役員が一巡すると、家族や本人の病気と高齢を理由にした役員辞退者が目立つようになりました。そこで国土交通省公表の「外部専門家の活用パターン方式」の検討と同時に毎年役員に就任できるかについてアンケートを行うことにしました。
その後、顧問のマンション管理士がいることを踏まえて、役員定数を6名から4名に削減するよう管理規約を改正すると共に、管理費を600円/月・戸値上げして役員報酬を36,000円としました。これは、役員に就任できると回答した区分所有者が20名おりましたので、5年に一度役員に就任すれば値上げ分を相殺できるようにして、事情により就任できない方の気持ちの負担も解消できるようにしました。「みんなが協力する管理」をアピールしたところ、就任してもよいという方が増え、役員のなり手不足は一時解消しました。
しかし、4回目の大規模修繕工事も無事に終了して8年が経過すると「もうひと頑張り」と今まで頑張って来た方々も80歳代になり「自分のことで手いっぱい」という意見が出てきて、4名の役員も選出ができない状態になってしまいました。
2017年の定期総会で理事会制度を廃止して第三者を管理者とする方式を検討することを上程して承認され、管理規約改正も含めて議論することになりました。
第三者管理者方式の導入
管理組合の運営について理事会方式を廃止して第三者管理へ移行することで問題になったのは、金銭事故防止策と第三者管理者へ支払う報酬をどこから捻出するかという2点でした。
金銭事故防止策として、手当ありの監事1名を区分所有者から選任し、銀行印の保管・押印を行ってもらい、銀行の通帳名もその監事とすることとしました。管理会社が通帳を保管し、管理者が管理費から出金が必要な場合は、銀行の出金伝票に金額を記入して、監事に説明の上押印してもらい、その伝票を管理会社の会計に出金処理してもらうこととし、第三者の管理者が単独で出金できない方式にしました。そして管理会社が作成する月次報告と管理者が作成する業務報告を監事に報告することとしました。
管理者へ支払う報酬については、管理会社の業務の見直しを行い、管理会社は会計・出納を中心に一部の点検以外は直接組合発注とし、運営のメインは新たな管理者に担ってもらい、総会にもフロントマンは出席しないようにしました。役割分担したことで大幅に管理会社の管理委託料を減額することができ、管理者に支払っても以前より安くすることができました。
一年間議論を重ねた最後に管理者の選出は公募するように進言しましたが、管理組合立ち上げから9年間顧問として携わっている私が適任ということで、全役員と役員経験者から推薦を受け、管理規約の改正、監事の選任と外部の第三者管理者との契約の議案が臨時総会に上程され、承認されました。
現在、外部の第三者が管理者となってから4年以上が経過しています。漏水事故、放置自転車の対応、給水方式変更の工事や立配管の入れ替えの修繕工事、点検業務への立会い、居住者からの要望対応等、毎月異なる案件がありますが、区分所有者の負担は大幅に減りました。
第三者管理者を実践して重要だと感じていることは、
① マンションをどの様に管理して行くべきか、将来像を伝え、区分所有者と方向性を合わせる
② 定期的な報告
③ 問題が生じた場合、区分所有者にアンケート等で意向を把握してから処理する
ということです。
総会時だけでなく、マンションの状況や方向性を繰り返し伝えることで、徐々に区分所有者との信頼感が生まれて来ました。
おわりに
国土交通省のマンション管理適正化法では、区分所有者で構成される管理組合が管理の主体であり、区分所有者の意見が十分に反映され、長期的な見通しを持って運営することが大切であると言っています。
現在、多くの管理組合では輪番制役員により理事会を運営しています。理事会に参加することで組合員の交流の場ともなりますが、その弱点は
① 個人の資質ややる気により理事会のレベルが左右される
② 任期終了後も同じ建物に住み続けるため、在任中に他の区分所有者が不適切な行動をしていても指摘することを躊躇してしまうこと
等が挙げられます。
そこで、管理組合の運営に専門家を活用することで、役員の精神的な負担を軽減しながら管理組合のレベルを維持でき、かつ専門家を管理組合の運営に組み込むことで、専門家の経験や情報量から長期的な視野にたった運営が可能になります。今後の高齢化対策や役員のなり手不足の問題解決に有効で現実的な一つの選択肢といえるでしょう。
第三者管理方式も専門家を管理者にした場合、その人の能力や考え方が今までの進め方や人間関係を含めたマンションの雰囲気にマッチするかという不安が生じます。管理会社が管理者となった場合も財政状態を知っているので、その範囲内の提案があり、交渉なしで物事が決定して進むことで、将来の費用負担が増えるという懸念が生まれます。
今後の維持管理の方法として、今まで通りの理事会方式、理事会方式に専門家を組み入れる、第三者管理(専門家に依頼または管理会社主導)方式に移行するなど色々な選択肢がありますが、マンションの歴史や将来像を考え、メリット、デメリットを考え、時間をかけて検討することをお勧めします。