30年以内に首都直下型地震が70%の確率で起きるという話を聞いて、理解しているのに「今は起こらないでほしい」と平穏な生活が延々と続くことを願いながら、自然と有事を想定したくないという気持ちになってしまいます。
そして、それが「いつ」なのかはっきりしないため、予算化できないことでマンション内の震災対策がなかなか進まないのが現状です。
もう一つ、私が業務で相談を受けて感じていることは、平成28年3月にマンション標準管理規約が大幅に改正されましたが、一般的に管理会社のフロントマン(担当者)は12~13の管理組合を担当していて、理事会・総会や緊急対応と滞納督促に追われ、民泊等の差し迫った条項のみを総会議案として提案していますが、全面的に管理規約を改正するという提案まではなかなかできていないようです。
管理規約の改正に強いリーダーシップを発揮できる役員がいるマンションやマンション管理士等に依頼して改正をしたところ以外は、こちらもなかなか進まない状態です。
それは、平成30年のマンション総合調査で、「改正後の標準管理規約に概ね準拠している」という割合が45.9%という数字に裏付けされています。
<震災対応の事前準備>
それでは、震災対応も管理規約の改正もできていないマンションはどのようにすれば良いのでしょうか。
震災対応は事前準備が大切と言われています。すぐできることから始めましょう。今までの震災で水が無くて亡くなった方は、一人もいません。家具等が転倒したため、割れたガラスの破片等でけがをした方が多いのです。
まず、家具の転倒防止とガラスの飛散防止を管理組合が主導して呼びかけ、全体で実施しましょう。江戸川区では65歳以上の熟年者のみの世帯に、一定の箇所まで無料で家具の転倒防止を実施してくれる制度(お問い合せは、住宅課相談係03-5662-0517へ)があります。熟年者以外の世帯は有料になりますが、同じマンション内で移動距離が少ないこともあって、全体で行うことで安価な価格設定で施工してもらえますので、相談してみてください。
家具の転倒防止とガラスの飛散防止を実施することで、確実に災害ゴミやけが人を減らすことができます。
<管理会社と事前協議>
次に管理会社と事前に打ち合わせをしましょう。現在の管理会社との管理委託契約には、災害時は含まれていません。対応は会社によって異なります。
3.11のとき、発災後隣接するマンションで、管理人さんが帰宅したところとマンションに留まって対応したところがあり、大きな差が出たようでした。
受託件数の多い管理会社には、それぞれ「業務継続計画(BCP)」があり、実際に訓練もしているところもあります。
ライフラインや交通機関がストップした場合の具体的な対応を事前に話し合っておきましょう。
管理会社も最近は「私たちも被災者です。貴マンションにはすぐに来られません」と以前と比べてはっきりと言うようになりました。「その代わりに事前準備に協力させていただきます」と理事会で話す会社が多くなりました。
発災直後の管理人さんの対応・ゴミ置き場の施錠方法・給排水設備の処理方法、破損個所の一時的な対応とその修繕手順等、具体的に理事会で打合せを行い、その結果を組合員に周知した上で、マニュアル化して、自分たちで対応できるようにしておきしましょう。
<震災対応の規約改正>
管理規約については、次の①②③(マンション標準管理規約の第21・54・58条に記載されている条項)が、現在の管理規約に記載されているか確認してみてください。記載がない場合には、次の総会に向けて議論の上、条項を追加することを前提に、総会や理事会が開催できない状況下でも一定の補修ができ、生活の維持確保ができるようにしておきましょう。
①第21条(敷地及び共用部分等の管理)
6 理事長は、災害等の緊急時においては、総会又は理事会の決議によらずに、
敷地及び共用部分等の必要な保存行為を行うことができる。
②第54条(議決事項)
十 災害等により総会の開催が困難である場合における応急的な修繕工事の
実施等
③第58条(収支予算の作成及び変更)
5 理事会が第54条第1項第十号の決議をした場合には、理事長は、
同条第2項の決議に基づき、その支出を行うことができる。
6 理事長は、第21条第6項の規定に基づき、敷地及び共用部分等の保存行為
を行う場合には、そのために必要な支出を行うことができる。
また、現在のマンション標準管理規約の第35条(役員)には、理事長、副理事長、会計担当理事と監事の規定がありますが、そこに防災担当理事を加えて、その方を中心に準備を進めてはいかがでしょうか。
以上は、理事会ですぐできる震災時の対応です。組合員が各自で準備するものや発災時にやるべきこと・やってはいけないこと、避難所に行くのかマンション内に留まるのか等を議論してルール化して、総会で承認しておくことも大切です。
震災対応について「何もできていない」「組織化されていても実際に動かない」というマンションは、自分たちが動かなければ、誰も手を差し伸べてくれないことを認識して、まず事前準備をどの様に行うか話し合うことから始めましょう。