区分所有法の改正により、管理組合総会における採決のハードルが大幅に下がりました。これは組合運営を主導する執行部にとって心強い法改正であり、特に投資型マンションやリゾートマンションなど、外部オーナーの比率が高い物件においては大いに歓迎されています。
どこのマンションでも、総会議案書を配付したものの返信がなく、組合運営に一切参加しない一定層は必ず存在します。居住していながらも組合運営に関心がなく、書類を読みも確認もせず、他者の献身にフリーライド(ただ乗り)している無関心層を採決の母数から外すこと――。それは、日頃から運営に尽力している理事会メンバーや、協力的な組合員の視点からすれば、極めて公平かつ当然の帰結であると感じられるはずです。
しかし、この出席者多数決の導入の裏で、一点気になる懸念が生じています。それが、議決権行使書における意思表示の選択肢の在り方です。
現在、多くの管理組合が使用している議決権行使書では、各議案に対して賛成(承認)と反対(非承認)の二択のみしか設けられていないケースが散見されます。
従来の制度における特別決議などでは、議案に対して不満や懸念、あるいは現時点では判断がつかないという迷いがある場合、組合員は議決権行使書をあえて提出しない(未提出)という選択をすることができました。分母が組合員総数および議決権総数であったため、提出しない行為そのものが実質的に賛成票にカウントさせないという無言の意思表示として機能していました。
ところが、今回の改正によって出席者(議決権行使書等の提出者含む)のみを母数として決議できるようになると、話は変わってきます。議決権行使書の選択肢が賛成・反対の二択のままであれば、これまでは未提出によって表現できていた中間的な意思や消極的な不参加が、完全にシャットアウトされてしまいます。
白黒をはっきりつけたくない、あるいは情報不足で判断がつかない組合員は、不本意ながら賛成か反対のどちらかに無理やり丸をつける、あるいは提出を諦め自分の意思が全く反映されない無関心層と同列に扱われるという二者択一を迫られて、意思を持った組合員の声を切り捨てることになりかねません。
出席者多数決は、無関心層による運営の停滞を防ぎ、スムーズな合意形成を後押しする優れた仕組みであることは間違いありません。しかしその一方で、一歩間違えれば意思表示の多様性を損ない、執行部の独走を許すリスクもはらんでいます。
だからこそ、今回の法改正を機に、二択のみの選択方式を採用している管理組合においては、議決権行使書に保留や棄権という選択肢を新たに追加することを推奨したと思っています。
保留や棄権が明確に選べるようになれば、それは総会に関心を持ち、書類に目を通した上で、あえて判断を留保したという立派な意思表示になります。執行部としても、単なる無関心による未提出なのか、それとも議案の中身に納得がいかないための保留・棄権なのかを可視化できるようになり、次回の議案修正や丁寧な説明へと繋げることが可能になるでしょう。
円滑なマンション管理組合運営とは、単に決議を通しやすくすることだけではありません。提出された保留や棄権の数にも耳を傾け、組合員のリアルな空気感を感じながら合意形成を図っていく丁寧さこそが、これからの管理組合に求められる姿勢ではないでしょうか。