輪番制で役員が選出されるマンションに住むAさんのもとに、ある日、管理会社の担当者から「来期は役員の順番です」と連絡が入りました。「何をすれば良いのか分からないけれど、順番なら仕方ない」――。そう思い、Aさんは役員を引き受けることにしました。こうした経緯で役員になる方は、決して少なくありません。
しかし、このように受動的な姿勢のメンバーばかりで理事会が構成されると理事会が開催されても、ただ席に座って管理会社担当者の説明を聞き、提案された解決策をそのまま承認していくので、他の選択肢を考えて比較検討も行われません。過去に役員を経験した組合員がその議事録を見れば、「今期の理事会は管理会社の言いなりで、まるで『お客さん』状態ではないか」と映ってしまいます。
一般的なマンション管理委託契約書において、管理会社の業務は「点検作業を実施し、指摘事項がある場合は写真付きの報告書と解決提案の見積書を理事会に提出すること」と規定されています。契約上の義務はあくまでこの指摘と提案までであり、提案された通りの内容・金額で工事を発注することまでは含まれていません。しかし現状として、多くの理事会が精査を行うことなく、既定路線のように管理会社へ工事を依頼しているのが実態です。
マンションの管理規約において、役員は「組合員のために誠実にその職務を遂行するもの」と定義されているところが多いはずです。役員は組合員の代表であり、預かった管理費や修繕積立金を執行する以上、どのようなプロセスを経てその結論に至ったのかを他の組合員に対して説明する責任を負っています。
私たちが私生活において高額な買い物をする際、複数の店舗で価格を比較し、製品の仕様や品質を十分に吟味して決定するのが通例です。管理組合の意思決定においても、この視点が不可欠です。仮に管理会社へ工事を発注する結論になるとしても、そのプロセスにおいて、どのような工法か、施工場所の状況はどうなのか、工期や施工人数は適正か、代替案はないのかといった点を徹底的に質問・確認して理解することが必要です。
このように、役員自身が内容を完全に把握し、組合員に対して論理的に説明できる状態を整えてから決定を下すこと。これこそが、役員に課された「誠実義務」の遂行であり、健全なマンション管理を維持するための基本となります。