30年以内に首都直下型地震が70%の確率で起きるという話はよく耳にしますが、「大きな問題は今起こらないでほしい」という平穏な生活が延々と続くことを無意識に願って、有事を想定したくないという気持ちも手伝って、マンション内の震災対策はなかなか進まないのが現状です。
■事前準備
避難所の収容人数と被害が大きかった住宅の住民が優先されることやプライバシーの問題も考えて、震災後もマンションに留まることを選択して準備をすることを周知しましょう。
具体的には、
①各戸の家具転倒防止策とガラスの飛散防止策を管理組合主導で呼びかけて行う。
②各戸の人数把握のため、防災訓練などの機会に申告制で便袋の配付を行い、記録に残す。
③必要な備品をリストアップ、予算化して順次購入していく。
④水・食料の備蓄は各自3~7日分を基本とすることを周知する。
⑤外部にいて戻れない人は、48時間以内に決められた固定電話(例えば管理人室)に必ず状況を連絡することをルール化しておく。
⑥震災から72時間限定の使用細則を制定して、総会で承認しておく。
⑦隣接町内会との協議等が考えられます。
■管理会社との事前協議
マンション標準管理委託契約書は、通常の状態で管理することを前提にしていて、地震・台風・集中豪雨・火災・漏水等について対応は行うようになっていますが、免責事項にもなっています。
別表第2の管理員業務では、「緊急事態の発生したときその他やむを得ない場合においては、当該時間以外に適宜執務するものとする」となっていて、震災後は従来の業務を大幅に超えることが予想されるので、現場での判断が優先されています。
私が出席している理事会で、管理会社のフロントマンに震災時の対応を尋ねると、以前ははっきりした答えがなかなか返って来ませんでしたが、3.11以降は「私たちも被災者です。管理人も勤務中の場合、帰れる人は帰ってもらい、帰れない人は留まってもらうことになっています。その代わりに事前準備のお手伝い、提案をさせていただきます」とはっきり回答する管理会社が多くなって来ました。
管理会社の選定ポイントに、費用は大きな要素の一つですが、安全に関する提案や指導を基に安心して生活できる点も大きな要素と考えています。現在、管理を委託している管理会社と事前に取り組みについて協議することが必要です。とにかく、居る人間で対応できる体制にしておく、居る人間で対応するという心構えが大切です。
■72時間限定細則の作成
震災発生から72時間以内にやるべきこと、やってはいけない具体例を決めて、総会で承認してもらい、細則にしておきましょう。
内容は、
①災害本部の立上げ方法。
②安否確認・更新方法。
③館内巡回、危険区域・立入禁止区域の指定、火災の有無チェック方法。
④設備の目視点検(給排水、自動ドア、エレベーター、機械式駐車場等)。
⑤ゴミ置き場の閉鎖。
⑥給排水の使用禁止。
⑦エントランス出入口にホワイトボードを設置して、各戸の人数・状況をかき出し、都度更新していく(帰宅困難者が帰宅した場合も記載してから自室に行くようにルール化しておく)。
⑧連絡の来ない住戸で「無事です」シートの出ていない住戸について、72時間前までにやるべきことを決め、2人1組で室内を確認する(確認のためあらかじめ決められた部分を破損させた場合の処理方法・費用負担を決めておく)。
⑨帰宅困難者宅の子供のケア。
⑩系統別給水・排水確認テスト等、共通する項目も多くありますが、マンション特有の点もあるので、各マンションで話し合い、マンション内の住民の生命を守り、安全に復旧出来ることを目標に独自のものを作り上げることが必要です。
■想定は経験から生まれる
だいぶ前の話ですが、千葉県中央区のマンションにいて、お昼ご飯を食べるために6階からエレベーターに乗り、降下している最中に千葉県沖地震に遭遇しました。古いマンションで09年の基準をクリアーしていませんでしたので、ソフトランディング(最寄りの階に自動的に停まる)機能も付いていませんでした。教科書では、地震が発生した場合、エレベーターの行き先のボタンをすべて押し、止まった最寄りの階で降りることと記載されていますが、エレベーター内にいて、気付いたことは「やけに前面の扉がガタガタするな」ということで、まさか地震だとは気づいていませんでした。そのときは、たまたま1階まで降りることができましたが、多くの建物でエレベーター内に閉じ込められた方がいたとニュースになっていました。
また、「お風呂の水は、トイレの排水に利用でき有効です」と言われていますが、どの様な流し方がいいのか?水を落とす位置よって、少ない水でも渦巻き状になって処理できますが、これも実際に経験してみないと分からないことです。
マンション内に災害対策本部を立ち上げると言っても「いつ、どのくらいの時間がかかるか、備品はどの様に配置するのか、住民への対応は」ということを体験することが大切です。
ライフラインや交通機関が止まるほどの震災が発生した場合、誰も助けに来てくれないことを前提に、自分たちのマンションでは「どの様にするか」話し合い、マニュアル等を作成して周知後に行動(訓練)してみて、問題点がないかチェックする。あった場合は修正し、新たなマニュアルでまた訓練をするという繰り返し(PDC)で、公助が始まる前の実用的なマニュアルになって行くと思います。